人生の三大目的(「十牛図」に学ぶ)

人間は何らかの目的を持たなければ生きていけません。もちろん生きてはいけます。でも確固たるこれだという目的があれば、たとえ困難に出会おうとも挫けることなく強く生きていくことができます。
 私が「十牛図」から学んだ人生の三つの目的を、今回紹介してみたいと思います。

十牛図」とは、逃げ出した牛を探し求める牧人を喩えとして、「牛」すなわち「真の自己」を究明する禅の修行によって高まりゆく心境を「尋牛」から「入廛垂手」までの十段階で示したものです。

中国・北宋時代の廓庵禅師の創案と言われ、日本においては、昔しから現代に至るまで、禅を学ぶ絶好の入門図として重要視されてきました。

しかしこの図は禅宗だけが専有すべきものではありません。人生のさまざまな重要な問題を提起し、それに答えてくれる絶好の人生の指南図でもあるからです。

(上に掲げた図は「観想十牛図」と題して、私の発案・監修のもと、画人・増野充洋氏に十年の歳月をかけて作成してもらったものです。一図一図、独立して描かれていたものを大きな一円相に収め、深奥な禅の世界を一幅の中に描き出したものです。従来の「十牛図」と異なり、ひと目で全体の構成を見渡すことが可能となり、各図の位置付や一連の流れも容易に理解できるようになっています。
従来の「十牛図」と異なるもう一つの点は、従来の第八図は「空一円相」ともいわれ、丸い円で描かれていますが、この「観想十牛図」では「空一円相」の円形を消して、まったくの空白としました。それは空の象徴としての円相はあくまでも象徴であって、空の実相ではありませんから、円相へのこだわりから離れるためです。なお一幅は横二メートル、縦三メートルの大きさです。URL:http://www.daihorin-kaku.com/bijutsu/bukkyoga/jyugyuzu.html


まず「尋牛」から「入廛垂手」までの十の図を説明してみましょう。

第一図 尋牛
 ある日、牧人の飼っている一頭の牛が牛小屋から逃げ出たことに気づいた牧人は、野を歩き、川を渡り、山を越えて、牛を探し求めています。ただ一人で・・・。彼は「自己究明」の牛探しの旅に出かけたのです。

第二図 見跡
 「もう牛は見つからない」とあきらめていた牧人が、ふと前方に目を落とすと、そこに牛の足跡らしきものを発見しました。「ああ、牛は向こうにいるぞ」と牧人は喜んでその足跡をたどって駆け寄っていきます。

第三図 見牛
 牧人はとうとう探し求めている牛を発見しました。牛は前方の岩の向こうに尻尾を出して隠れています。牛が驚いて逃げ出さないように、牧人は足をしのばせて牛に近づいていきます。

第四図 得牛
 牛に近づいた牧人は持ってきた綱でついに牛を捕らえました。牧人は、再び逃げ出そうとする牛と渾身の力をふり絞って格闘を始めました。

第五図 牧牛
 牧人は暴れる牛を綱と鞭とで徐々に手なづけていきます。牛はとうとう牧人の根気強さに負けておとなしくなりました。牛はもう二度と暴れることも逃げ出すこともありません。

第六図 騎牛帰家
 牧人はおとなしくなった牛に乗って家路につきました。牛の堂々とした暖かい背中を感じつつ、楽しげに横笛を吹きながら・・・。

第七図 忘牛存人
 とうとう牧人は自分の庵に帰り着きました。牛を牛小屋に入れてほっとした牧人は、庵の前でのんびりとうたた寝をしています。静寂の中、安堵の気持ちで・・・。彼は「生死解決」をほとんど成し遂げたのです。

第八図 人牛倶忘
 うたたねをしていた牧人が突然にいなくなりました。あるのはただ空白だけ。牧人になにが起こったのでしょうか。

第九図 返本還源
 空の世界からふたたび自然がもどってきました。牧人の中に根本的な変革が起こったのです。牧人は自然のようにすべてを平等視して生きることができるようになりました。

第十図 入廛垂手
 牧人はふたたび人間の世界に立ち帰りました。人びとが行き交う町の中に入った彼は一人の迷える童に手を差し伸べています。牧人はとうとう「他者救済」という彼が目指す最高の境地に至ったのです。

以上の十図の説明の中にもありますように、私は「自己究明」と「生死解決」と「他者救済」の三つが人生の三大目的であるということを学び、それ以後、この三つの目的を自分に言い聞かせて人生を歩んできました。

また、私は「自分とは一体なにか」「自分はいかに生きるべきか」という人生の二大問題を考えるとき、この「十牛図」を人生の指南図として多くのことを学び取ってきました。そしてそれにしたがって自分を変えようと精進してきました。


この三つは、時と場所を問わず、また思想や宗教の違いを超えて、人類が持つべき三大目的であると確信しています。

このブログを読まれた方の中で、がんじがらめに縛られたこの自分を変えたいと思い、そして荒廃した世界を少しでもよき方向に変革したいと願って、「十牛図」の牧人のような生き方をしよう、と決意される方がおられることを切に願ってやみません。

十牛図」に学びたいという方は、下記の本とホームページを参照していただければ幸甚です。

・横山紘一著『十牛図入門〜「新しい自分」への道〜』(幻冬舎新書
・ホームページ「唯識塾」(http://www.idotservices.info/page.cgi?kouitsu)の「十牛図」の項

十牛図入門―「新しい自分」への道 (幻冬舎新書)

十牛図入門―「新しい自分」への道 (幻冬舎新書)

次回のブログは上記三つの目的を統合して、「自己を学び、生死を超える」と題で書く予定です。