「唯識で読み解くダンマパダ」(26)〜奮起し励む〜

今回は第25詩句を読んでいきます。
まず訳を記します。
 (第25詩句)
 奮起と励みと自制と抑制とによって
 聡敏な人は瀑流にも流されない中洲を作るべきである。

 この詩句の主語である「聡敏な人」の原語は「メーダーヴィン」で「智慧(メーダー)を有した人」という意味です。そのような聡敏な人は「奮起と励みと自制と抑制」という四つの心のありようを有していると詩句の前半に述べられています。
 このうち「奮起」の原語「ウッターナー」は「立って起きる」を原意とし、「起策」と訳され、「心を鞭打って励む」ことを意味します。まず最初に、奮起し努力する心があげられています。
 次の「励み」の原語は「アプラマーダ」で「不放逸」と訳されます。
 この不放逸は、放逸ではない心、すなわち、なまけない心をいい、積極的に言えば、「悪を防ぎ善を修する心」です。詳しくは、あらゆる善心を起こすよう鼓舞する「精進」と善を生じるのに最も力強い原因となる「無貪・無瞋・無癡」の三つの心から形成されます。 むさぼることがなく、いかることがなく、おろかでない心で、「よし精進し努力するぞ」という意志を起こすが必要なのですね。
 次の「自制」の原語は「サムヤマ」で、「止息」「静息」と訳され、煩悩が止み静かになった心を意味します。
 その次の「抑制」の原語は「ダマ」で、「調伏」と訳され、心を調えて煩悩の汚れから浄めることを意味します。よく調えられ柔らく素直になった心であるといえるでしょうか。
 このように四つの心のありようを有した賢人は「瀑流にも流されない中洲をつくる」と詩句の後半に述べられています。
 中洲の原語「ディーパ」は「島」を意味する語ですが、洲とは河の中にある砂の島のことです。「ディーパ」には「安全な避難所」という意味もありますが、中洲はそこに居れば安全で瀑流にも流されることはありません。
 このような安全な中洲をつくるというのは譬喩ですが、現実は、無常転変する人生の流れの中で、その流れに翻弄されない確固不動の己を築きなさい、その「確固不動の己」を養成するために必要なのが、「奮起と励みと自制と抑制」の四つの心のありようであると、この詩句は教え示しているのです。
 この四つを実践することは私たちには難しい。でも心の深奥にこの四つを刻印することから始めてみようではありませんか。
  「奮起し励もう!」
 と自分に言い聞かせて、今回のブログを終わります。