小さな「いのち」に眼を向けよう

仏教に五つの戒(いましめ)があり、その中の最初が「不殺生戒」(生きものを殺すなかれ)であることはよく知られています。この戒めを忠実に守って、いまでも路を歩くときには前を箒で掃きながら進むことをしているジャイナ教徒がいるそうです。なぜ箒で掃くのか。それは自分の足で地上の虫などの小さな生きものを踏みつけて殺さないためです。
 またあのガンジーがこの不殺生戒に基づいて、非暴力、無抵抗の精神でイギリスの圧政に立ち向かい、インド独立を成し遂げたことは有名です。
 ところで、最近私は「誤犯の不殺生戒」ということを知り、足元に注意して路を歩くようになりました。
 いま、早朝に路を歩くと多くの蟻たちが右往左往して働いています。なにか餌となるものを探しているのでしょうか。なかには自分の二倍も三倍もある餌食をくわえてヨッコラショと運んでいる姿に出合います。ついつい「がんばれ、がんばれ」と声をかけてしまいます。
もし足元に眼を向けることなく路を歩くと、そのような蟻たちを踏み殺してしまいます。それが「誤犯の不殺生戒」です。無意識に誤って蟻を殺してしまうからです。
 私たちは歩くだけで、いかに多くの小さな生きものを殺していることか。
 人によっては、そんな小さな生きものなど、どうでもよい、と思う人いるでしょう。でもどのような生きものであっても、「生きている」という事実においては平等です。
そのような平等な「いのち」を無駄に殺してよいという権利は人間にはありません。
 ときには足元の「小さないのち」に眼を向けましょう。
 すると「君も僕も共々生きているのだ」という思いが湧いてきます。そして、「みんな生きているのだ。できらば幸せであってほしい」という気持ちが起こってくるのは私一人ではないでしょう。